賃貸マンションの305号室に住む佐藤さんは、最近、キッチンのシンク下から漂う悪臭に悩まされていた。水漏れ修理の配管を交換した昭島市水道局指定業者は扉を開けるたびに鼻をつく、下水と何かが腐ったような臭い。彼は几帳面な性格で、掃除もこまめにしている自負があったため、この原因不明の臭いは彼にとって大きなストレスだった。ある日、意を決してシンク下の収納物をすべて出し、内部を観察すると、排水ホースが床に繋がる部分のカバーが少しずれているのを発見した。これだ、と確信した彼は、ホームセンターで補修用のパテを購入し、その隙間を完璧に埋めた。これで解決するはずだった。阪南市で蛇口の水漏れトラブルを修繕専門チームに、数日経っても臭いは完全には消えなかった。 一方、同じマンションの502号室に住む鈴木さんも、同様の臭いに悩まされていた。大雑把な性格の彼は、「まあ、古い建物だしこんなものだろう」と半ば諦めていたが、ある日、シンク下の鍋が濡れていることに気づいた。よく見ると、排水ホースとシンク本体の接続部分から、ごくわずかに水が滲み出ている。これはまずい、と感じた鈴木さんは、すぐにスマートフォンのカメラでその部分を撮影し、管理会社に電話を入れた。「シンク下が臭くて、どうも水が漏れているみたいなんですけど」。状況を簡潔に伝えると、管理会社はすぐに業者を手配してくれた。 数日後、マンション全体で排水管の点検が行われることになった。鈴木さんの部屋に来た業者は、劣化したパッキンを交換し、水漏れはすぐに収まった。そして、佐藤さんの部屋も点検に訪れた。佐藤さんは、自分がパテで補修した箇所を誇らしげに示した。しかし、業者はそこを一瞥すると、シンクと排水ホースの接続部を指さした。「佐藤さん、臭いの本当の原因は、こっちのパッキンの劣化ですね。パテで塞いだ床の部分も原因の一つではありましたが、根本はここからです」。さらに業者は続けた。「ご自身で補修されるのは素晴らしいですが、もしパテが固まって排水管の点検口を塞いでしまったりすると、かえって大掛かりな工事が必要になることもあるんですよ」。 この話は、賃貸物件におけるトラブル対処の、二つの対照的なアプローチを示している。佐藤さんのように、真面目で責任感の強い人ほど、問題を自分で解決しようと努力する。それは決して悪いことではない。しかし、その努力が時として、問題の根本を見誤らせたり、善意から行った行為が意図せず状況を複雑化させたりすることがある。彼は、目に見える「床との隙間」という現象に囚われ、その奥にある「パッキンの劣化」という本質的な原因に気づけなかったのだ。 対照的に、鈴木さんのアプローチは一見すると他力本願に見えるかもしれない。しかし、彼は「水漏れ」という、自分では対処できない明確な異常を発見した時点で、速やかに専門家(管理会社)に助けを求めるという、極めて合理的な判断を下した。彼は、自分にできることとできないことの「境界線」を正しく認識していたのだ。 結局、マンションのいくつかの部屋で同様のパッキン劣化が見つかり、一斉に交換されることになった。佐藤さんが自費で購入したパテ代は、もちろん返ってはこない。この一件は、私たちに教えてくれる。賃貸物件で問題が発生した時、最も重要なのは、闇雲に努力することではなく、その問題がどこにあるのか、そしてその解決は誰の責任範囲なのかという「境界線」を冷静に見極めることだ。その境界線を越えていると感じたら、迷わず助けを求める。その判断こそが、最も賢明で、結果的に効率的な解決へと繋がるのである。
シンク下の臭いと、見えない「境界線」